日南線・伊比井駅

 新婚旅行で海外に行くのが当たり前ではなかった時代、宮崎の青島・日南地区は、新婚旅行の行先としてトップクラスの人気を誇っていたという。

 今やその面影を見出すのも困難ではあるが、それでも県庁宮崎市の市街や宮崎空港からさほど遠くないという立地条件や温暖な気候により、根強い人気はあるようである。プロ野球のキャンプ地としても知られている。

 しかし、そこを走る日南線は、もう昔のような活気は見出せない。青島なども駅は無人化されており、利用者も少ない。宮崎に近い所はバスや車も便利だからであろうか、少し離れた飫肥、日南、油津あたりに、途中区間で乗降客が多い駅が固まっているようである。

 その青島の先、飫肥の手前の地味な区間の一つ、伊比井という駅に、ぶらりと降り立ってみた。正直、そこまで大きな期待はなく、ちょっと海でも散歩して戻ろうかという程度だったのだが、何とも表現し難い、不思議な情緒を感じたひとときであった。

 時は晩秋、北国はもうすっかり冬支度が終わっている時期だが、ここ南国、宮崎はまだポカポカ陽気である。それでも風はちょっと冷たい。


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 快速とは名ばかりのたった1輛の志布志行き気動車から降り立ったのは、私の他におばさん一人だけ。ちょっとした高台にある駅で、狭い島式ホームの交換駅である。南九州に多い、ガラス張りの待合室を兼ねた簡易駅舎だったら面白くないなと思って降りたのだが、ここは昔ながらの駅舎が健在であった。小さい駅舎だが、かつては駅員がいたのであろう。そしてホームの一部を切り欠いて設けられた階段を降り、線路を横断する構内踏切を渡って駅舎へ出るという、このスタイルが何とも言えない。

 駅が高台にあるので、駅舎を出たら階段を降りなければならない。降りた所は国道。車はそれなりに通る。沿道は古い木造の家屋が並び、ちょこっと店もあるといった、街道筋の小集落である。


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 その国道を横断して狭い道を集落に入ってみる。陽光を浴びて明るい雰囲気だが、ひっそりと静まり返っている。平日日中だから当然だろうが、それでも空き家は少ないようで、生活の息吹を感じる集落であった。

 抜けると海辺に出た。青い綺麗な砂浜である。年頃の女の子が二人、海辺で遊んでいた。それ以外には人影がない。夏は海水浴客で賑わいそうな感じであるが、壁に大きく「水泳禁止」と書いてある。


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 雄大な青い海も、そこで遊ぶ現代っ子の女の子も、ありふれた現代の風景である。しかしこの古びた、しかし落ち着いた静かな集落と、そこに立地する駅は、一瞬、現代であることを忘れそうな光景ではないか。寒くも暑くもない快適な気候だし、このままいつまでもぼっと海を眺めていたくなる。

 そんな、自分にとって贅沢な一瞬の時間を過ごし、やってきた上り南宮崎行きの列車で引き返した。2輛編成だが、今度もガラガラに空いていた。正直、日南線の将来が心配である。
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by railwaytrip | 2010-11-17 13:06 | 九州・沖縄地方


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