日本の最北端を目指す宗谷本線。今日、本線とはいえ、実態はすっかりローカル線になってしまっている。今日は札幌から、その半ばにある天塩中川まで、特急スーパー宗谷の旅を楽しむことにした。
宗谷の発車時刻である8時30分は、札幌駅の朝ラッシュのピークだ。東京ほどではないというものの、各方面からひっきりなしに通勤列車が到着し、大勢の人を吐き出している。大都会の通勤風景がすっかり定着している。その人混みの激しいホームから、僅か4輛の特急が発車する。とはいえ、旭川までは30分間隔の都市間特急列車の役割も担うため、このスーパー宗谷は日によっては大変混雑する。今日はそれほどでもなく、普通車指定席は8割の乗りであった。早めに押さえてあった私の指定席は進行右側の窓側。隣の席にはおばさんが座った。手に滝川までの切符を持っているのが見えた。稚内行といえども、短距離利用者の方が多いのかもしれない。 江別までの沿線は、すっかり住宅に埋め尽くされてしまった。江別を過ぎて、夕張川の鉄橋が近づくあたりで、ようやく北海道らしい広々とした風景に出会う。しかしその次の豊幌は、昔は小さな無人駅だったのに、今は駅周辺に新しい住宅がかなりできている。日本の大都市近郊では、まだまだ鉄道沿線から開けていくケースも多いようだ。幌向、上幌向も、昔は札幌近郊であることを忘れるような田舎の集落だったが、今は新しい住宅が見られ、新興住宅地らしくなりつつある。けれどもそれも岩見沢までだ。 岩見沢を出れば流石に札幌郊外の雰囲気は消えうせ、広々とした空知の田園地帯を列車は快走する。検札に来た初老の車掌が、隣のおばさんの切符を一旦見た後、もう一度戻ってきて「すみません、滝川でしたか。失礼しました。滝川、深川、旭川と、川が続くので、最近はぼけてきて混乱してしまって」と、ユーモアたっぷりに詫びている。旅を楽しくさせてくれそうな車掌に出会えて嬉しい。その滝川でおばさんを含め、この車輛からも5人ほどが下車、続く深川は下車が少なかったが、旭川ではかなり下車し、代わって乗車する人もいるが、下車よりは少なく、車内は6割ぐらいの乗車率になった。旭川の高架化工事はまだこれからのようで、昔のままの駅が健在であった。 旭川を出るといよいよ宗谷本線に入る。比布までは旭川郊外で、住宅も散見されるが、その先は田舎の色が濃くなっていく。交換設備もある蘭留は、塩狩峠の手前にあり、平地の果てる所にある、雰囲気の良い駅であった。蘭留を出ると一気に峠道に入り、三浦綾子の小説でも知られる塩狩峠越えに臨む。新型の特急気動車は、急勾配をさして速度も落とさずに上っていく。その塩狩は、サミットにあり、温泉旅館があるものの、人家も稀な駅である。今度は峠を一気に下り、平地に降りて少し走るとやがて和寒。旭川を出て最初の停車駅である。下車したのは1人だけのようであった。和寒とはいかにも北海道らしい味のある駅名である。 和寒から名寄までは、概ね平地で、水田が多い。その中を小さな乗降場があるかと思えば、時にちょっとした集落の駅を通過する。剣淵や風連など、町の中心であり、人家もそれなりに多いので、加減速性能も増した新型特急列車を停車させて利用増を図れないのかと思ったが、和寒の乗降客が1名だけという現状を見てしまうと、あまり意味がないのであろう。それに対して士別はかなりまとまった人数の下車客がある。やはり町と市の差は大きいようだ。駅自体も、本線の主要駅らしい風格が感じられた。 名寄着10時44分、札幌から2時間余り。ここはかつて、名寄本線と深名線の分岐した道北の主要駅だが、今はただの途中駅だ。それでもかなりの乗客が下車する。スーツにネクタイ姿のビジネスマンもいる。逆に言うと、名寄から先は稚内まで、途中に市もなく、ローカル色が濃くなるのだ。近年、高速化改良工事が行われたのもここまでである。 名寄の街を出て次の日進まで来ると、左から天塩川が近づいてくる。ここから先の宗谷本線は、川原も作らずにひたすら滔々と流れる水量豊富な天塩川に沿って下っていく。人家はいよいよ見られなくなり、スピードも落ちた。日進の次に最近まで智東という駅があったが、乗降客がなくなったため最近廃止された。貨車を改造した駅舎はまだ残っていた。 美幸線が分岐していた美深は、名寄以北では大きな町だが、さほどの下車客はない。このあたりの中小の町は一昔前から比べても活気を失っているのだろうか。行き違う列車もなく、これが本線かというほどに交換駅も少ない。かつての交換駅の多くも単線化されてしまっており、使われなくなったホーム跡が草に覆われて朽ちかけているのも、各地のローカル線に共通の風景となった。美深の次の交換駅は豊清水で、駅は健在なものの、駅前に一つ廃牧場が見られる以外に人家は見当たらなかった。 そして音威子府。かつて天北線が分岐していたため、名寄以北では一つの鉄道の要衝で、村の規模に比して大きな駅があり、名物の駅そばがあり、鉄道員住宅もある。普通列車はこの駅止まりや長時間停車も多く、駅名も実に北海道らしく、そのため、特に観光名所がある所ではないが、立ち寄る旅行者も多いようだ。しかもここは沿線唯一の村である。それに対して、これから行く天塩中川は、村ではなく、中川町という町なのだが、駅名も平凡な単なる途中駅という感じが濃く、宗谷本線の特急停車駅の中で、一番話題に上ることの少ない駅ではないかと思う。 音威子府から天塩中川の間、特にその中間の、筬島と佐久の間は、天塩川にひたすら沿ってカーヴを繰り返しながら進む、この線の一つのハイライトだと思う。かつて途中に神路という駅があったが、利用者皆無となり廃止された。今、注意深く見ていると、駅舎があったと思われる土台だけが残っているが、あとはもう自然に帰してしまっている。 さて、定刻12時01分着、天塩中川に着いた。札幌から3時間半かかった。降りたのは私の他に3、4名であった。特急停車駅なのに無人駅で、車掌が切符を回収している。時代もここまで変わってしまったかと思う。 閑散とした町だが、町を貫く国道沿いが一応の中心街となっていて、お店もいくつもあり、スーパーもある。その先には役場などがあり、その向こうが天塩川である。ここで見る天塩川は護岸工事も行われていて、途中区間で見たような原始のままの天塩川とは違う。特にこれといって素晴らしい景色ではない。 廃集落の多い北海道の田舎にあって、中川はまだかろうじて、町としての体裁を保っているようであった。町を歩いている人は少なく、いても年寄りが多いが、入ったスーパーでは若い男女の店員が何人も働いていた。モダンな建物も多いが、開拓時代の面影を残すような木造家屋もまだ多く健在なのが嬉しい。 それに、内地は梅雨の季節だが、爽やかな夏晴れの日に当たったのも嬉しく、ちょっとした中川歩きは、思ったより面白かった。しかしやはり、寂れゆく町の一つには違いなく、一抹の寂しさも感ぜずにはいられなかった。
by railwaytrip
| 2006-06-15 08:30
| 北海道地方
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