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飯田線・小和田駅

 天竜川中流域の険しい渓谷地帯を、川に沿って縫うように走っているのが飯田線。上流に行くとおだやかな伊那谷になるのだが、このあたりの中流域では、それが嘘のような険しい地形が続いている。ダムも多く、かつて、そのダム建設による集落移転や線路の付け替えなどもあり、昔と比べても沿線住人は減っている、過疎地帯である。

 そんな区間にある駅の一つが、ここ小和田駅。列車交換もできる相対ホームをもった駅だが、今や信号場に格下げしてもよさそうなぐらいに、駅の利用者は少ないという。飯田線のこのあたりには、他にも利用者が殆どいなくなってしまった駅がいくつかあるが、その中にあって、ここは列車交換のできる立派な駅であり、ホームだけの停留場ではない。そして今や貴重となった木造駅舎も健在である。

 上り列車で降りてみる。もちろん他に乗降客はいない。車掌が、下車客がいるのに驚いて切符を回収に走ってきた。列車が大嵐方の隧道へと去ってしまうと、人影ひとつなく、静寂があたりを支配する。

 いい駅である。狭い相対ホーム、構内踏切と木造駅舎。ホームから見える天竜川。線路は両側が隧道。それだけで、人家も何もない。駅前には使われなくなった飲料の自動販売機が放置されている。勿論稼動していない。


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 この駅は、駅前に車の乗り入れができない。今どきこういう駅も珍しい。駅周辺に人家がなくても、車が停められれば、車でやってきて列車を利用する人がいる。ここはそれも不可能で、駅を出るといきなり天竜川に向かって狭い坂道がころげ落ちていくばかりだ。まるでハイキングコースの山道に出たかのようだ。


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 その坂をちょっと降りた所に、小さな展望台のようなスペースがあり、そこに妙なベンチがあり、その両側に折りたたみの椅子が3脚ほどあった。このベンチは二人用で、何と大きな赤い字で「愛」と書いてあり、その上下には「小和田発ラブストーリー」「お二人の幸せを呼ぶ椅子」と書いてある。これは一体何かというと、皇太子妃雅子様の旧姓が小和田(おわだ)だったため、そのご成婚の時、この小和田(こわだ)駅がそれにあやかって大賑わいになったのだそうで、その際に作られたものだそうだ。その時はこの人里離れた無人駅が大賑わいになったという。そういう物好きが数名程度いるなら話はわかるが、その程度では済まない大量の人がこの駅を訪れたというから驚く。それにしてもこの椅子、誰が座るのだろう。かつて訪問者が多かった頃は、ここにカップルが座って記念写真などを撮っていったのであろうか。そんないっときのブームもとうに去り、今は訪問者もめったにいない寂しい駅に戻っている。

 下りホームには、三県境界の駅ということで、静岡県、愛知県、長野県を指し示す木製の標識が立っている。そういう場所なのだ。実際には小和田駅は静岡県に属するが、次の駅、中井侍は長野県になる。驚くのは、最近の市町村合併で、ここが浜松市に編入されたことだ。こんな山奥が浜松市だと言われても誰もピンとこないであろう。


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 古い駅舎は、よくぞ残ったという感じである。安全上の問題もあり、取り壊されるのも時間の問題かもしれない。その駅舎にくっついている古い駅名標も実に味がある。対照的にホームにはJR東海の標準仕様の駅名標が設置されている。いくら乗降客が少なくても、駅である以上、全ての駅に標準の駅名標を設置するのが、分割民営後のJR東海のポリシーらしい。


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 そんな観察をしているうちに、隧道の奥から光が見え、下り岡谷行の列車がやってきた。乗降客は当然、私一人だ。
by railwaytrip | 2006-10-19 16:05 | 中部地方


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