越後湯沢8時05分発水上行普通列車は、東京ではもう殆ど見られなくなったという意味で、今や懐しいと言ってもよい、かつての国鉄の標準型近郊電車115系だ。5輛という比較的長い編成なのは、長岡始発で、途中で通勤通学時間帯にかかっているからであろう。越後湯沢でざっと見たところ、思ったより座席は埋まっている。しかし最後尾車輛までいくとガラガラであった。
まだスキーシーズンであり、山にはかなりの雪が残っている。けれども朝の上り列車にスキー客らしき人はいない。学生を除くと用務客っぽい人が多く、中年の男性が多い気がする。観光客らしきグループも散見される。 最初の停車駅は岩原スキー場前。駅名の通り、スキー場のために作られた駅で、当初は冬季だけの臨時駅であった。しかしその後、駅付近に湯沢高校が移転したため、年間を通じて営業するようになった。ここで早速、十数名の高校生が下車した。上越新幹線開通以来、このあたりには首都圏住民のセカンドハウス向けといった感じの高層マンションなども増えている。よって駅付近も結構賑やかな感じだが、一般の乗降客は殆どいない。 ここを出ると、昔から岩原の大カーヴとして知られる大きなカーヴで、ぐるりとほぼ180度、向きを変える。このあたりはまだ田園地帯で、一見平坦に見えるが、この大カーヴも勾配緩和のためであろう。実際、気をつけていると、徐々に登っているのが感じられる。そして次が越後中里。ここまでは隧道もなかった。駅前がスキー場で、その昔、新幹線開通以前は、冬の間だけ特急も停車したりして、首都圏からのスキー客が多かった所だ。現在はローカル線化した上越線も、新潟県内はそれなりに地元住民の利用があり、ここがその南限、長岡方面からこの駅止まりの普通列車が何本かある。今はここも、昔と違ってマンションなどが目立つ町になっており、決して寂しい所ではないが、この列車での乗降客は皆無であった。 越後中里を出ると、線路は川端康成の「雪国」以来、良く知られた険しい国境越えに挑む。この区間の日常的な流動はごく僅かだ。それでも新幹線開通前は、特急「とき」や急行「佐渡」が頻繁に行き交う大幹線であったが、今は夜行や貨物を除くと、普通列車が一日5往復するだけの、超ローカル線になっている。但しスキーシーズンの冬季だけ、季節列車が数往復加わる。撮影名所として知られた魚野川の鉄橋を渡ると人家も途切れ、こちら上り線は、隧道に入る。そして列車は右へ右へとひたすらカーヴする。そう、ここはループ線なのである。ループ線は上り線のみ2ヶ所ある。当初単線で開通した当時の上越線は、この上り線であり、現在の下り線は後からできたため、隧道が多く、ループにはなっていない。 ループ一周のカーヴが終わり、直線になっても、列車はしばらく隧道を出ない。出るとそこはもはや人家も全くない険しい山峡で、そんな所をしばらく走ると土樽に着く。駅裏に山荘があるだけで、一般の人家は見られない、寂しい駅だ。しかも、少し前までは小さなスキー場があったが、今は閉鎖されたそうだ。中央に、かつて特急の追い越しに使われた本線が通り、普通列車はホームのある待避線に入る。立派な駅で、駅舎もあるが、乗降客はいない。 土樽を出ると、右手に慰霊碑が見える。これは清水隧道建設にあたり犠牲になった人たちを祀る碑である。当時としては大変な難工事だったに違いない。そして列車は清水隧道に入る。こちら、上り線は、最初に単線で開通した清水隧道であり、下り線はそれよりずっと長い、新清水隧道である。下り線は、湯檜曽・土合の両駅のホームが隧道の中にあるという面白い構造で、あちらはあちらで乗ってみると面白い。けれどもその分、景色の見える区間が少ない。山の景色をゆっくり楽しむなら、やはり上り線である。土樽~土合間は殆どが清水隧道であり、出た所が土合。立派な山小屋風の駅舎も、今は無人駅で、ここも乗降客はなかった。下り線ははるか下方の隧道の中を通っていて、下り線ホームまでは延々と階段を下りていかなければならないという、変わった構造の駅で知られる。 土合を出ても隧道は続く。2つ目の隧道を出ると右手には奥利根の渓谷と湯檜曽の温泉街が見えてくる。そして列車はループ線の上に出る。右手下方に湯檜曽駅を見下ろすことのできる箇所があり、この区間のハイライトだと思う(写真左下)。今、この景色に接する機会を持つ人はごく僅かだろう。しかしその昔は日々、首都圏と新潟を行き来する大勢の人がここを通っていた。逆に、湯檜曽駅で上り列車を待っていると、山の中腹を列車が通るのが見えて、それから3分ほどすると、その列車がホームに滑り込んでくるという、これまた面白い経験ができる。 ここも右へ右へとカーヴを続け、ぐるりとループ線を一周する。最後の隧道を抜けると、さきほど見下ろした利根川を渡り、どことなく寂しげな温泉街を見ながら湯檜曽駅に滑り込む。ここも下り線は隧道の中なので、上り列車からは見えず、一見、単線ホームの駅のようだ。湯檜曽は、土樽や土合と違ってある程度の人家があるが、集落や温泉が駅と少し離れていることもあり、一日5往復だけになった上越線の普通列車を利用する人は少ないのだろう。かつては急行が一部停車した立派な湯檜曽駅も、今はやはり無人駅で、下車客はなく、若い男性が1人乗ってきただけであった。そして湯檜曽を過ぎてさらに谷を下り、幾度となく利根川を渡り、急に人家が増えてくると、終着駅水上に到着した。 水上は言うまでもなく著名な温泉地である。しかし、新幹線に見離されて以来、以前の賑わいはなく、寂れてきているようだ。上り列車で降りた客の殆どは、跨線橋を渡って水上始発の高崎行普通列車に乗り継ぐようで、改札を出る客は少ない。駅前は土産物屋が並び、それなりに観光地の風情があるが、活気は感じられない。乗り換えの客を改めて良く見れば、若い女性のグループなど、都会風の若い人も多い。春休みだし、青春18切符の季節でもあるので、こうして鈍行を乗り継いで長距離を移動する人もいるのであろう。ということは、普段はもっと客が少ないに違いない。そう考えると上越線のこの区間は、貨物や夜行がなければ、横川~軽井沢と同様、廃線の憂き目に遭っていたかもしれない。今のところその心配は無さそうだが、遠い将来、ここはどうなるのだろう。日本全国でも第一級の車窓を有するこの区間、いつも新幹線にばかり乗っていないで、たまには時間を取って鈍行旅行を楽しんでいただきたい、と、多くの人に伝えたい区間である。 ※ この区間は、中部地方(新潟県)と関東地方(群馬県)とにまたがりますが、新潟県側の方が若干距離が長いため、便宜上、中部地方のカテゴリーに分類しました。
by railwaytrip
| 2007-03-29 08:05
| 中部地方
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