Maribor ~ Cakovec

 オーストリア南部の都市Graz(グラッツ)を昼過ぎに出て、その日のうちにクロアチアの首都Zagreb(ザグレブ)へ行きたい。14時02分にスロヴェニアの首都Ljubljana(リュブリアーナ)行の国際列車がある。順当に考えれば、これで、リュブリアーナとザグレブの分岐点、Zidani Most(ジダニ・モースト)まで行き、そこでザグレブ行きに乗り換えれば良い。ところが、ザグレブ方面への接続が極めて悪いようである。Zidani Mostですぐ接続する列車はあるのだが、国境手前のDobova(ドボヴァ)までしか行かない。Dobovaは、スロヴェニアではあるが、クロアチアのザグレブから30キロしかなく、ザグレブへ通勤すらできそうな場所である。しかし、この国境はEUとEU外との国境でもあり、出入国審査もしっかりあるであろう。それだけに、頻繁に列車が走っていないようである。Zidani Mostか、Dobovaかで2時間待って、ザグレブ着は20時02分ということになる。それでも日の長い季節なら楽しめそうだが、このあたりは欧州標準時採用エリアでもかなり東にあり、Zidani Mostに着く頃には冬の短い日が暮れてしまう。日没後の田舎駅での2時間待ちはきつい。

e0028292_0293116.gif そこで地図と時刻表を眺めているうちに、代替のルートが見つかった。かなりローカル線っぽく、詳しいことはわからないが、こうである。グラッツ14時02分の列車で、国境を越えた町Maribor(マリボール)下車、ここでMurska Sobota行きローカル列車に乗り換える。この列車はZidani Most方面へしばらく進んだ後、Pragerskoという所で支線へ分岐し、Ormozという駅に至る。このOrmozで乗り換えると、国境を越えてクロアチアのCakovecという所まで行く列車がある。このOrmoz~Cakovec間は、トーマス・クックの時刻表を見る限り、1日2往復しかない。相当なローカル線と思われる。しかしこの列車からは見事に5分の接続で列車がある。それで終点Cakovecに着くと、30分ほどの待ち時間でザグレブ行きがやってくるというわけだ。このCakovec~Zagreb間は、ハンガリー方面から線路がつながっており、ローカル線かもしれないが、ある程度の輸送量のありそうな線と見受けられる。

 もっとも、トーマス・クックの時刻表も、西欧主要国の詳しさに比べ、このあたりになると、かなり粗くなる。掲載されていない線も多く、ましてローカル線の鈍行旅行には殆ど役に立たないと言ってもよい。そんな中でこのルートは、国境を越えるからか、一応掲載されている。そして、ザグレブ着が19時58分と、2時間待ちの幹線経由より4分早い。早く着くのは途中の待ち時間が短いからだが、それも結構なことではないか。

 とはいえこんな見知らぬ土地での日没後のローカル国境越えルートを一人旅するのは、若干の不安もある。できればスロヴェニア国鉄のウェブサイトなどで最新情報の裏づけを取りたかったが、そういう余裕もないうちに、出てきてしまった。

 グラッツからの特急はガラガラであった。その昔はイミグレーションがいかめしく乗ってきた、オーストリアとスロヴェニアの国境越えも、つい先日、スロヴェニアもシェンゲン協定を実施したため、今は何もない。そしてスロヴェニア側の国境駅、Mariborに定刻着。ここでの接続時間は15分ある。


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 この特急の後に出る、Zidani Most行のローカル列車がホームに停車している。ホームに掲示してある駅の発車時刻表にも掲載されている。しかし、私が乗りたいMurska Sobota行きが載っていない。最近のダイヤ改正でこの線が廃止されてしまったのか、それとも路線は残っていてもこの時刻の列車がなくなったのか、と、早くも不安になる。駅の時刻表というものは、基本的に全ての列車が掲載されているはずだ。

e0028292_23472135.jpg 切符売場近くに案内所があり、男性の係員が一人座っている。他に客もいないので、質問してみる。英語は結構通じる。乗換駅のOrmozの発音が正確にはわからないが、「オルモツ」で大きく違わないだろう。オルモツへの列車はなくなってしまったのかと訊ねると、コンピュータを叩いて必死で調べてくれる。そんな事をしないとわからないのかと、また不安になるが、やがて、まず18時何分かの列車でウィーンへ行けと言う。そんな大回りをしないといけないのは、いくら何でも話が変だと思っていると、この係員、何と、チェコのオモロウツと思ったらしい。私の発音が悪かったかと思って、違う、オルモツだ、と、スペルを書いて見せると、「おー、オルモツ、オルモツ」と納得して、「あるよ、15時25分、3番線から」と、何一つ見ずにスラスラと答えてくれた。どうやらOrmozとは、案内書に訊ねに来る外国人が行くような所ではない、超ローカルな所らしい。

 というわけで、3番線に行くと、古びた2輛のディーゼルカーが停まっており、地元のお客を乗せて待っている。総数20名ぐらいだろうか。楽しそうなローカル線である。定刻に発車。

 しばらくは本線を行く。乗ってみれば、どうやら完全な各駅停車のローカル列車で、小さな駅にちょこちょこ停まっては、多少の乗降客を扱う。乗降ゼロの駅もある。日本のローカル線と似ている。検札の車掌が来た。若い女性で、キリリとした、スポーツ選手のような雰囲気をもっている。制服姿がなかなか格好いい。

 完全な各駅停車だ、なんて、言うまでもなく乗る前から当然、と、車輛や雰囲気から明らかそうだが、来るまでの私は、そのあたりがわからなかった。というのも、トーマス・クックの時刻表では、本線から支線に分かれる Pragersko という駅が通過になっていたからである。分岐駅でも町が小さく、列車が通過してしまう駅というのは、どこにでもある。だがこの列車は、乗ってみれば小さな畑の中の無人駅も全て停車する、完全な各駅停車である。このからくりは、短絡線の存在であった。分岐駅のPragerskoに停車すると、列車は方向を変わらなければならない。しかしその手前から短絡線があるのだ。この列車のすぐ前を、Zidani Most行の鈍行も走っていることだし、分岐駅とはいえ小さな集落のPragerskoに、あえて停車する必要もないのであろう。というわけで、Pragerskoが近づくとスピードが落ち、ポイントをガタガタと渡る。そして本線と分岐し、右手の雪原の向こうに 駅を見ながら、今度はその駅からの線と合流する、というわけだ。


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 合流して、単線のローカル線に入った。そしてまた、小さな各駅に停まる。乗降客が一人二人いる駅もあり、誰も乗り降りしない雪原の中の寂しい駅もある。写真左上は、待合所だけのSikoleという寂しい駅、右上は少し大きく、乗降客も見られた、Ptujという駅。そんな所をしばらく走るうちに、冬の短い日が暮れてきた。そして、かなり薄暗くなった頃、列車は定刻16時35分、Ormozに着いた。


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 Ormozは、非常に寂しい駅であった。寂しいが、分岐駅で、はす向かいのホームに、やはり2輛編成の気動車が停まっている。これが接続しているCakovec 行の”国際”列車に違いない。Ormozで乗り換えたのは、私を含め5人ぐらいで、見事に空いている。Ormozがこんな何もない小さな駅なので、この列車の乗り換え客の他には、客もいなかったようである。小さい駅だが、駅前に1軒、バーがある。その他には何もない。三角屋根の駅舎は瀟洒だ。夏の昼間にでも来てみれば、印象は全く異なるであろう。

 気味悪いぐらいにガラガラの Cakovec 行も、定刻に発車。スロヴェニア国鉄の、同じ形式の気動車2輛編成である。これが、Cakovec までの22キロを24分で走る、一日2本だけのローカル国際列車なのである。それにしてもこんなに客が少ないとは驚いた。今日まで残っているのが奇跡と言える線かもしれない。

 もっともここは、今でこそ国際列車だが、かつてはユーゴスラヴィアという一つの国の中であった。それが今や、かつての国内列車が国際列車となり、かつて国際列車だったオーストリアとの行き来は、シェンゲン条約によって、パスポート・コントロールすらなくなっている。

e0028292_23512753.jpg それにしても、国際列車とは恐れ入るほどのローカル列車だ。乗っている自分自身、信じられない。しかし、3つ目のSredisceという駅は、一日2往復のローカル線には不釣合いなほど大きく、駅舎の中に警察が入っており、スロヴェニアのパトカーが一台停まっている。なるほど、と思う。実際、停車するとほどなく、警察官が2人組で現われ、パスポートチェックである。差し出すと、パラパラとめくって、スロヴェニア(EU)出国のスタンプを捺してくれる。冬のこの時期、観光地とも無縁なこんなローカルルートでの国境越えは、いかにも怪しいと、自分自身でも思うのだが、特に質問もなく簡単であった。

 その頃には外は完全な夜となった。そして発車。外の景色は夜なので定かではないが、パラパラと人家のある農村地帯という感じのようである。列車もあまりにも空いているので、夜もだいぶ遅いような錯覚を持ってしまうが、まだ5時だ。闇の中、どこが国境だったかもわからぬうちに、広い構内の駅に着いた。ここがこの列車の終着、Cakovecである。

e0028292_23523840.jpg 列車がCakovecのホームに停車した。しかしドアは開かない。ここで今度はクロアチアの警察官が2名で乗ってきた。入国審査である。EUもすっかり大きく広がったが、ようやく脱出だ。ここも簡単で、パスポートをパラパラと見て、スタンプも捺さずに黙って返してくれた。ジャパニーズ・パスポートの威力に感謝。そして列車のドアが開き、下車できる。他の僅かなローカル客と一緒に駅舎へ向かう。この中に果たして、ここを毎日通勤している人がいるのだろうか、16時代という時刻から言って、多分いないだろうとは思うが…

 Cakovecも寂しい駅であった。駅前は灯火も暗く、店1軒とない。それでも周辺に人家がある程度見られ、多少の利用者はいるようである。古い駅舎の中には窓口が一つあり、女性の係員が座っている。二昔ぐらい前に戻ったかのようだが、その女性駅員も、ちゃんとパソコンのモニターを前に仕事をしているのは、現代の先進国だ。よって、硬券乗車券が出てくることはなさそうである。ザグレブ行まで30分ほどの待ち時間があり、日没後のこんな駅では何もやることはない。なので、明日のザグレブからの切符を手配しようかと思って聞いてみる。英語は多少通じたが、十分ではない。それでも質問すると親切に列車の時刻を教えてくれたが、座席指定などはできないらしい。ここはCakovecだから、というような事を言う。


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 待合室もある。これまた古びていて、壁は一面の落書きだ。私の乗ってきた列車からの乗り継ぎ客ではない客もいる。このあたりからの利用客で、ザグレブ行を待っているのであろう。駅自体は寂しい場所ではあるが、時たま送迎の車も来るし、全くの僻地でもなさそうだ。


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 列車の時間が近づくと、数名の乗客が狭いホームに向かう。そして闇の中から、機関車に牽かれた5輌編成の客車列車がやってきた。ここまで乗り継いできた2本の列車と違って、ちゃんとした長距離列車風で、しかも客車はコンパートメントである。けれどもガラガラで、誰もいないコンパートメントも沢山ある。その一つに座った。ザグレブまでは2時間弱と、結構かかるが、最後まで相客も現われなかった。

 大半が夜なのが残念ではあったが、実に面白い国境越えルートだった。もう一度、機会があるかどうかわからないが、次は季節を変えて明るい時に乗ってみたいと思う。もっとも、それより前に路線が廃止されそうな予感がするが…
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by railwaytrip | 2007-12-23 15:25 | スロヴェニア


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