小海線・小淵沢~佐久平

 中央本線小淵沢駅。今でこそ市町村合併で、北杜市とかいう意味不明な名前の市になってしまったが、市ではなく町がふさわしい、高原の駅である。軽井沢のような華やかさもなく、かといって徹底的に観光化を嫌っているわけでもない、そのさりげなさが好ましい。

e0028292_6505532.jpg 鉄道マニアでなくても、小海線を、そして清里や野辺山を知っている人は多い。そういう人は、新宿から中央線でここまで来て、清里か野辺山あたりまで利用する。近年は甲斐大泉あたりも隠れた別荘地として知られているらしい。

 6月の平日なので客は少なく、発車10分前に小海線ホームに行ったらまだ2人向かい合わせのボックスが空いていた。そこへ座る。キハ110という新しい気動車の2輛編成だ。最近の傾向で座席が少なくなっているのはいただけないが、ロングシートよりはマシと思って諦めねばならない。窓が開かないのも、自然の中を走るローカル線としてはどうかと思う。乗客はというと、一見して地元の人とわかる人は少数派のようで、旅行者っぽい中高年の人が多い。ワンマン列車で、車掌はいない。

 小淵沢9時50分、定刻に発車。ほどなく中央本線と分かれて右へカーヴする。このカーヴは、いきなり現れる小海線の名所の一つで、小淵沢の大カーヴとか呼ばれているようだ。昔から殆ど変わっておらず、築堤を大きなカーヴを描きながら進む。カーヴの内側は田畑が広がっている。バックは南アルプスの山々。それを過ぎると、いかにも高原という感じで、時に畑の中を走り、森を抜ける。最初の停車駅は甲斐小泉。続いて甲斐大泉。駅間距離も長く、結構時間がかかる。近くに座っていた二人組のおばさんの一人が携帯電話で話し始めた。誰々さんが駅まで迎えにくるのかとか、そういうことを大声でしきりとやっている。友達か親戚の別荘にでもお世話になるらしい。勿論、ローカル線でもルールは全国共通で、車内での通話は遠慮しなければならないのだが、お構いなしだ。そして甲斐大泉に着くと、二輛目の前ドアから降りようとして、ドアが開かないので焦っている。ワンマンだから、1輛目の前ドアしか開かないのだが、そんな事は都会の人はわからない。放送も、携帯電話に夢中で気づかなかったのだろう。しかしここは列車交換で停車時間が長く、やがて気づいて駆け足で前の車輛に移っていって事なきを得ていた。


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 もともと空いていたが、小淵沢からの客の何人かがここで降りて、さらに空いた。右上は甲斐大泉停車中の1輛目車内。ところが次の清里では、ワッペンをつけた団体がどっと乗ってきて、満席に近くなった。殆どが中高年で、女性が多い。それにしてもこの清里という所は、自然豊かな小海線の中で、突然変異のようなけばけばしい景観を見せてくれる場所で、個人的には好きになれない。もっとも、かつては若者で大賑わいだったこの地も、今はブームが去って、だいぶ寂れたらしい。車内から駅前の様子を見るだけでも、それが感じられた。

 こういう団体、私の肌には全く合わないが、そこまで騒々しいわけでもマナーが悪いわけでもなく、ローカル線振興のためにはこれも仕方ないのかなとも思う。そのおばさんたちの会話の中に、この先で長野新幹線がどうのこうのいう言葉も出てくる。まさか皆、佐久平まで一緒なのだろうか。山梨県から長野県に入り、JR最高地点の踏切を過ぎ、気動車のエンジン音からも、下り勾配に変わったことがわかると、間もなく野辺山である。言うまでもなく、JRで最も標高の高い駅として、昔から良く知られている。清里とともに、このあたりの高原の観光地として知られているが、昔から清里よりはずっと鄙びている。その分、観光ブームが去ってもみじめにならない良さがあるように思う。そして、清里からの団体は、ここで降りてしまった。やはり、最高地点を走る鉄道への1駅だけの乗車体験だったようだ。団体のみならず、他の客もここまででかなり降り、車内は再び空いてしまった。

 小海線というと、最高地点のこともあって、小淵沢からここまでが、こうして観光客にも人気がある区間だが、私は個人的に、小海線の一番の良さは、ここから小海までの間ではないかと思っている。要するに、観光地色が薄まり、より鄙びてくるからなのだが、経営的には一番の赤字区間かもしれない。小海線はここから終点小諸まで、概ね千曲川に沿ってひたすら下っていくことになる。このあたりはその源流に近い。次の信濃川上は、川上村の中心駅で、小さいながら一応の集落である。清里や野辺山のような観光色は殆どない。次の佐久広瀬は周囲に人家もまばらな、単線の無人駅で、ここで一人、地元の女性が乗ってきた。その次の佐久海ノ口も地元の人が何人か乗車し、乗客の構成が段々と観光客から地元客へと変化していく。

e0028292_655237.jpg 千曲川に沿ってカーヴを繰り返しながら、海尻、松原湖と、単線の小さな無人駅を過ぎ、次が線名にもなっている小海である。立派な駅舎があるが、町は小さいようで、乗降客もさほど多くないが、運転上も一つの要衝である。

 小海を出ると、佐久鉄道という私鉄が開業させた区間になるため、駅間距離が短くなる。そして沿線の人口密度も徐々に高くなっていくのだが、小海に近い側はそれほどでもない。次の馬流と、その次の高岩の間、右手には、大きな岩がそびえており、線路はその下を通る。この岩は、高岩駅の駅名の由来らしい。交換駅の八千穂は、木造駅舎が残るいい感じの駅で、また乗客が少し乗ってきた。1~2駅ごとに単線の無人駅と駅舎のある交換駅が繰り返される。そのうち青沼駅は昔は田んぼの中の閑散とした無人駅だった筈だが、今はだいぶ人家が増えたような気がする。とはいえ、そこまで賑やかにならず、農村地帯を少しずつ乗客を拾いながら、列車は佐久市の中心駅である中込に着いた。小海線の車輛基地もある要衝で、乗客もある程度入れ替わった。

e0028292_6565413.jpg とはいえ中込も、今は寂れ気味らしい。もともと佐久市にはもう一つ、岩村田というそれなりの集落があり、そこへきて今は新幹線の佐久平が発展しているので、中込の求心力が失われているようだ。小海線は、ここと小諸の間が一番輸送量が多いらしく、ここでワンマン運転は終わりとなり、車掌が乗ってくる。バスさながらのテープの放送が増えた今日、車掌の肉声が妙に新鮮である。

 駅間距離はますます短くなり、ちょっと走るとすぐ、住宅と田畑が混じる滑津、続いて国道沿いの賑やかな北中込と停まる。各駅ともある程度の乗降客があり、平日の日中にこれならば悪くないかもしれない。さきほどの八ヶ岳山麓の観光路線の余韻はもはやない。そしてビジネスホテルなども見られる岩村田。駅舎は古く、ローカル線の中心駅ぐらいの貫禄がある、いい感じの主要駅である。乗降客も多い。

e0028292_6581511.jpg もともと駅間距離の短かった小海線北部。岩村田と中佐都の間も1.8キロに過ぎない。その中間に新幹線が通ることになり、佐久平駅が設けられた。ゆえに、岩村田を出た小海線は、ほどなく新幹線を跨ぐため、高架になる。そしてすぐに、単線の細いホームだけの高架駅、それが小海線の佐久平駅なのである。以前にも利用したことはあるが、施設こそモダンだが、あまりに小さい。けれども、利用者数を考えれば、横浜線の新横浜駅よりはマシかもしれないとも思う。とにかく佐久平駅周辺は、近代的なホテルやビルが増えつつあり、基本的にローカル線である小海線の中では、やはり異色である。乗降客も小海線としては多く、いつどこから乗ったのか、新幹線乗り換えとしか考えられないスーツ姿のビジネスマンなども結構降り、東京方面からと思われる荷物を持った客の乗車もそれなりにあった。小海線の駅では唯一、東京直結の空気が漂う駅だ。同じ東京直結でも、小淵沢ともまた異なり、小淵沢のような旅情すら感じられない駅であり、好きにはなれないが、小海線の活性化に一役買っているには違いない。かくいう私も、時間があれば、小諸、軽井沢経由ぐらいでと思っていたが、残念ながら午後に東京で用事があり、ここから新幹線で東京へ向かわなければならないのである。言い換えれば、長野新幹線があるお陰で、小海線寄り道が実現できたのである。旅情がないなどという贅沢なわがままを言ってはいけないとは思う。
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by railwaytrip | 2008-06-19 09:50 | 中部地方


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