上白滝は、一日に1往復しか列車が停車しない駅として有名になってしまった。それは列車本数の削減と、周囲の駅の廃止などによって結果的に生じたに過ぎないのであるが、廃止されてもおかしくない駅が、あえて残ったとも言えるのかもしれない。何はともあれ、興味をそそられる駅ではある。
春休みもほぼ終わった4月上旬の夕方、白滝駅にやってきた。ここは旧・白滝村の中心駅で、一応の集落であるし、特急も停車する。もとより活気はないが、生活の香りは十分ある。しかし今や特急停車駅といえども無人駅が珍しくない時代になった。駅舎こそ立派だが、駅員はおらず、切符も売っていない。なので勝手にホームに入り、列車を待つ。他に列車を待つ客は誰もいない。ほどなく遠軽方面から列車がやってきた。ディーゼルカーの2輛編成、ワンマン列車である。17時02分発普通列車旭川行。 無人駅なので、降りる客は一番前の運転手のいるドアから降りてくる。数えてみると4名。意外にも殆ど若い人であった。遠軽にでも遊びにいった帰りであろうか。それを見届けてから1輛目に乗り込み、整理券を取る。そしてデッキから客室に入って愕然とした。客が全然いないではないか。念の為、1輛目を前から後ろまで歩いてみたが、正真正銘、他に乗客はゼロであった。ここから先は一日1本だけの普通列車である。これでは列車自体の存続すら危うい。 白滝から上白滝までは、3.3キロと、近い。長閑な北海道の田舎を3分も走ると、すぐに列車は減速し、テープの女声のアナウンスが、上白滝到着を告げる。すると、2輛目から若い女の子が一人、移動してきた。上白滝で降りるらしい。白滝で降りた若者同様で、遠軽あたりに出かけた帰りだろうか。しかし白滝なら何本かの列車があるが、上白滝からだと、朝は07時04分発の1本だけしかない。ということは、朝はその列車で出かけたのだろうか、それとも行きは親に白滝まで車で送ってもらったのであろうか?できれば話を聞いてみたいところだが、上白滝に着くと、当然ではあるが、さっさと行ってしまった。こちらは列車の発車を見届けたいのでホームにとどまる。 運転手は、その女の子と私から「ありがとうございました」と丁寧に挨拶しながら運賃を収受し、それを終えると、2輛の車内を巡回していた。ダイヤに余裕があるようで、時計を見ると、17時08分の発車時刻までまだ2分ぐらいある。列車はここ上白滝を出ると、次の上川までは実に1時間08分もかかるのである。その間、人家もない山の中を孤独に耐えながらひたすら運転するのだから、何人の客が、そしてどんな客が乗っているのか、確認したい気持ちはわかる。乗客ゼロの日も珍しくないのかもしれない。ナイフを持った客が一人だけなんてことがあったら、と、飛んでもない発想も湧いてくるが、1時間も駅も人家もない所を走るのだから、考えようによっては恐ろしいことである。今はまだ良いが、冬だと全区間が日没後だ。 駅の先にある踏切が鳴り始めた。そして時間になり、ドアが閉まり、発車。列車はゆっくりと動き出した。2輛目に客がいたかどうか、確認できなかったが、いずれにしても、殆ど客もいない状態で、相当な燃料を消費しながら、長い山越えに挑むのである。ゆっくりと走り去る気動車の後ろ姿は、この上なく侘しげであった。 さて、列車を見送った後、上白滝駅周辺を観察する。駅舎は古い木造の好ましいものだ。奥白滝など他の駅が廃駅になった中で、ここだけは生き残った。それにはちゃんと理由があって、駅周辺にそこそこの人家があるのだ。駅のすぐ横には工場もあり、駅前の国道の向かいには商店もある。廃屋かなという家も見られるが、住人も結構いるようである。農業か林業で暮らしている人もいるだろうし、車で白滝や丸瀬布、遠軽などに通勤している人もいるのかもしれない。 このように、一日1往復しか停車しないとはいえ、それなりの人家があるので、普通列車がある限り、この駅も廃止にはならないであろう。しかし、こうしてみる限り、廃止の危惧が高いのは、上白滝駅そのものよりも、この区間(上川~白滝)の普通列車である。ここは険しい峠越えなので、かなりの燃油を消費する筈である。そこをかくも空気輸送の列車を走らせることは、大変な無駄であろう。特急以外というと、あと1往復、特快きたみというのもあるが、それでもこの有様では近い将来、石勝線の新夕張~新得と同様、特急列車のみの区間になりはしないかと心配である。
by railwaytrip
| 2009-04-07 17:02
| 北海道地方
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