長崎県第二の都市・佐世保は、少し前まで東京からの寝台特急の終着駅であった。遠い九州の、それも県庁所在地でもない都市としては異例と言ってよいだろう。それだけ人口も多く、活気ある都市である。残念ながらぱっとしない曇天で寒い日だったが、街をちょっと歩いてみた。
佐世保駅は綺麗でモダンな高架駅になっていた。2001年完成だそうで、もう8年にもなるのだが、まだ真新しい駅のようだ。こういう高架駅になると、どうしても個性がなくなり、旅情が湧いてこない。東京近郊の駅も地方の主要駅も、同じように見えてしまう。 その佐世保からは「特急みどり」が博多へ向けて頻発している。特急ではなく、純然たる域内ローカル列車でもない、もう一種の列車として、快速シーサイドライナーというのがある。これは、長崎と佐世保という、県内二大都市を結ぶ、大村線経由の快速である。今日はそれに乗って、長崎市の入口の浦上まで行ってみる。 平日の昼下がりのこととて、乗客はさほど多くない。2輛編成の気動車は、席がさらりと埋まる程度の乗り具合である。車輛はキハ67という国鉄時代のもので、これはそれなりに思い出深い。ローカル線の旧型車輛を置き換えるために新製された気動車で、筑豊地区に集中投入された。当時の筑豊は、炭鉱の閉山が相次いでおり、暗いイメージもあっただけに、こういった新型気動車の投入が、その暗いイメージの払拭に一役買っていたものであった。それが今、色を変えてこんな所で走っているのであった。さすがに古びてきているが、転換クロスシートの快適な車輛だ。窓が開くのも良い。 早岐までの3駅は、市の郊外といった感じで、各駅に停まる。最近、地方の快速は、所要時間を犠牲にしてでも、都市周辺の近郊区間での頻度を維持するため、「区間快速」化しているケースが増えているように思う。仙石線などもそうだ。どちらが良いのか、難しいところだが、私としては、ここは早岐までノンストップで快速らしく走ってもらいたいと思う。けれども、佐世保~長崎間は残念ながら、高速バスの方が所要時間でも運賃でもやや勝っている。そのため、高速バスの通らない途中駅からの利便性を高める方が得策なのであろう。これも時代の流れであり、寂しいが仕方ないのであろう。 その日宇でも大塔でも、佐世保からの客がパラパラと降り、乗車も少しある。閑散時間帯でも多少は利用されている都市近郊区間だ。そして早岐。高架化された佐世保と違い、古くからの主要駅らしい貫禄をとどめた重厚な駅である。洗面台もあって、長距離列車が行き交った時代を偲ばせる(写真左上)。今もそこそこの市街地があり、乗降客も結構多く、佐世保発車時点より少し混んだ。といっても座席の半分が埋まるかどうかという程度である。ここまでが佐世保線で、ここから大村線に入る。 早岐の次は、1992年開業のハウステンボス。川とも運河ともつかない早岐瀬戸に沿って近づくと、右手前方の川向こうにリゾート地らしい「オランダ風の」建物が見える。島式のホームは案外と狭い。前の席を向かい合わせにして座っていた女子大生風の3人連れは、ここで降りるのではと思っていたが、そうではなかった。それでも観光客風の乗降客が若干あり、すぐに発車。ここからようやく快速列車になる。 ハウステンボスを出ると、短い隧道を一つくぐってすぐ南風崎を通過する。ハウステンボスとの距離は0.9キロしかない。それなのに、交換設備まで残されているのは、今の時代としては驚きだ。交換設備どころか、もっと人口密度が低い地域なら、ハウステンボス駅の開業時に廃止されてもおかしくない。けれどもこの南風崎駅は、終戦時の復員列車の始発駅として知られる由緒ある駅だ。当時、東京発南風崎行という列車が、臨時ながら運転されていたという。そんな説明板もある駅なのだが、あっさりと通過。 右手は遠く近くに大村湾を眺めながら、単線ホームの小串郷を通過し、次の川棚に停車する(写真右上)。乗降客も多く、意外と大きな駅である。駅員もいて、昔ながらの改札業務をしており、列車を見送る。段々と稀少価値の出てきた光景である。 川棚から松原あたりまで、大村線はその大半を、大村湾の波打ち際に沿って走る。大村湾は、知らなければ湖と区別がつかないぐらい、陸地に囲まれた湾であり、常に波静かで、西九州らしい穏やかな風景をたっぷり見せてくれる。列車の旅はいいなあと思える区間である。しかも、さびれきったローカル線でもなく、空いてはいるものの、適度に乗客がいる。沿線もそれなりに人家もある。しかも大村線は、もともと長崎本線として開通しただけあり、駅構内も広く、幹線の面影が残っている。高速列車に乗り慣れた人からみれば、スピードは遅いが、車に抜かれまくりというようなローカル線でもない。要するに、一昔前まで日本全国で当たり前に存在していた地方路線の雰囲気が、今もあまり変わらず残っている。写真左上は、川棚~彼杵間の右手車窓。 これまた今や珍しくなった、JRバス乗換駅の彼杵に停まる。ここで佐世保行の快速シーサイドライナーと交換する。彼杵も駅員がいて、川棚ほどではないが、乗降客もある。そして単線で古い木造駅舎が残る千綿、広い構内を持つ松原と、快速らしく通過し、そのあたりから海と離れていく。そして人家も増えてきて、モダンな建物も見られるようになると、竹松に停車する。前の席にいた三人連れの女の子のうち一人が、ここで降りる。最初はハウステンボスに行く観光客に見え、次は長崎にでも遊びに行く仲間同士かと思ったが、どうやら、佐世保に通う学生らしい。竹松で50分だから、長距離通学だ。 竹松の次が、線名でもある大村。間には諏訪という新しい駅があるが、快速は通過する。大村は、地方都市然とはしているが、長崎空港を有し、長崎県の三大都市である長崎、佐世保、諫早のどこへも通える範囲だから、それなりに栄えているようだ。降りる人より乗る人が多く、混んできた。女子大生の二人目がここで降りた。 長閑な大村湾沿いを走ってきた後だけに、ここまで来ると、景色がつまらなく見えてしまうと思ったが、大村線最後の通過駅、岩松を過ぎると、意外にも山の中に入り、ちょっとした山村風景が見られる。だがそれもつかの間で、やがて左手から長崎本線がぐるりとカーヴを描きながら合流してくる。対するこちらは殆ど直線で、そのまま諫早駅に滑り込む。大村線の方が開通が早く、その昔はこちらが長崎本線だったことの証左である。 4分停車の諫早は、そこそこ大きな街で、この列車の乗客もかなり入れ替わる。きちんと見ていたわけではないが、佐世保から乗り通している客は、ここまでで大半は降りたように思う。諫早から乗り込む客は、思ったほど多くなく、同じような混み具合で発車していく。長崎本線に入ると、特急向けの線形になるためか、スピードもあがり、新設の住宅地駅、西諫早をあっさり通過して、喜々津に停まる。ここで佐世保からの女子大生三人組の最後の一人が降りた。この列車で1時間17分。かなりの長距離通学だが、乗換もなく、ゆっくり座れるのであれば、悪くないかもしれない。東京ではこれ以上の乗車時間で、しかもその大半を立って通っている人がいくらでもいる。 喜々津から浦上までは、海あり山ありのローカルな旧線と、長い隧道で一直線に長崎を目指す新線がある。長崎本線の特急は全て新線経由だが、普通列車は大村線からの直通列車の場合、快速が新線、普通が旧線と、ほぼ役割分担している。長崎本線は、諫早以東からの直通列車はもともと本数が少ないが、電車の場合は新線しか走れない。というのも、旧線は非電化のままだからである。よって、同じ非電化の大村線と旧線とを直通の気動車が走るのは都合が良い。しかし、快速はやはり、長崎への速達性も重要なので、新線を行き、途中の駅は通過して、喜々津~浦上間の16.8キロを14分で走破してしまう。 この新線は、後から山の中を貫通させたため、隧道が多く、駅はその合間の集落に3ヶ所設けられている。もう開通から随分経つのだが、あまり発展していないようで、最後の駅、現川などは、長崎へ10分で行けるのに、山村の佇まいである。その現川を通過すると、九州の在来線で最長の、長崎隧道に入る。そこを高速で突っ走り、出るといきなり、山がちで坂の多い長崎の、特有の都市風景が展開する。そして旧線が合流してきて、路面電車も見えてくると、浦上である。 爆心地や浦上天主堂などでその地名を知られる浦上は、かつては郊外の農村地帯だったらしいが、土地の狭い長崎ゆえ、今はすっかり都市化してしまっている。終着・長崎まであと1.6キロしかないが、今は特急も全て停まり、長崎市の鉄道のもう一つのターミナル的にも機能している。行先によっては、ここでバスや路面電車に乗り換えた方が便利だ。私もここで降りるし、降りる客も多い。他方、浦上から長崎までの1駅だけを利用する人などはいないかと思ったら、数名がこの列車に乗車した。昔はこのあたりで、長崎本線を市内交通的に利用する人は珍しかったが、快速や普通の本数が増えたので、路面電車やバスより速くて確実なのだろう。そうして着いた浦上駅前は、高層マンションやコンビニなどが目立つ、現代的な都市風景が広がっている。それでも駅前を路面電車がけなげに走っていて、それがちょっとした情緒を醸し出してくれているようだ。
by railwaytrip
| 2009-11-16 13:42
| 九州・沖縄地方
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