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総武本線・南酒々井駅

 巨大都市・東京のベッドタウンは、高度成長期に国電区間を越えて広がった。千葉方面は、佐倉、成田、木更津、茂原といったあたりまでがそうで、東京から直通の快速が走り、長距離通勤客の足になっている。無論、皆が東京まで通っているわけではない。千葉や船橋、京葉工業地帯、そして成田空港なども、通勤目的地となっている。

 総武本線に関しては、佐倉が一つの境界であろう。佐倉から分岐する支線であるはずの成田線の方が、もう一つの成田という都市の存在に成田空港が加わり、終日、東京方面から直通快速が乗り入れるようになっている。しかし総武本線の佐倉以東は、日中は特急を除けば、千葉折り返しのローカル列車のみが発着している。

 よって、同じ総武本線でも、佐倉を境に、幹線からローカル線に変わる、というのは言いすぎかもしれないが、ちょっとそんな感じがある。少なくとも佐倉以東は単線になる。それでも純然たるローカル線ではなく、八街、成東、横芝、八日市場、旭など、点々とそこそこの規模の市町が続いている。八街などは、かなりの乗降客があるし、その間の中小の途中駅も、ベッドタウン化が進んでいる所もある。榎戸などはその最たるもので、かつては乗降客もまばらな無人駅だったのが、今は駅周辺に住宅が建ち並び、利用客も多く、昔の面影がすっかりなくなってしまった。

 ところが、佐倉の次の南酒々井だけは、昔から変化がなく、駅周辺も全く開発されず、まるでエアポケットのように、寂しいまま残っているようである。数年前、この区間を久しぶりに列車で通った私は、南酒々井の寂れ具合と榎戸の発展の両方に驚いたので、そうなると、見てみたいのは、変貌した榎戸よりも、まずは南酒々井である。

総武本線・南酒々井駅_e0028292_3485089.jpg 朝の「しおさい1号」で佐倉まで行き、反対ホームに停まっている各駅停車成東行に乗り換える。まだ朝の通勤時間で、佐倉の上りホームはこの通りである。成東行は懐かしいスカ色(かつての横須賀線の色なのでそう呼ばれる)113系の8輛編成で、空いている。8輛は結構長いが、通勤時間だからで、通常は4輛で使われる編成が2編成つながっているようである。

 佐倉からしばらくは、複線の成田線と単線の総武本線が並んで走る。どちらが本線か、というような眺めである。佐倉の街もすぐはずれて長閑な眺めが続く中、並走は3分ほど続く。やっと成田線が左へ去ると、ほどなくスピードが落ち、ポイントを渡り、田舎の景色が変わらないままに、島式ホームの南酒々井に到着する。


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 反対ホームには千葉行の普通列車が先に着いて待っている。当然、あちらの方が乗客が多い。先に着いていたので、南酒々井で乗車した人がどのぐらいいたのかわからなかったが、とにかくホームには人の気配もなく、下り列車の乗降客は私以外にいなかった。左上は佐倉方面に走り去る上り列車。ホームやや前方に屋根のない歩道橋のような跨線橋がある。出口は北側のみで、南は山で、出口を作りようがない。右上は跨線橋から見た駅前の眺め。


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 ポツンと小さな赤茶色の駅舎がある無人駅だ。範囲内だからスイカは使える。駅前もガランとしている。線路に沿って駐車場はあり、駐輪場もあるが、どちらも空きスペースは沢山ある。目に入るのは古くからの住宅ばかりで、東京近郊とは思えない静かな佇まいである。右上は駅舎を出た目の前正面の風景。


総武本線・南酒々井駅_e0028292_3555637.jpg総武本線・南酒々井駅_e0028292_356914.jpg

 駅前商店があるが(写真左上)、営業しているのかどうかはわからない。自動販売機すら無いので、営業していないのかもしれないし、朝早いから閉まっているだけかもしれないが、どちらにしても、そんなに人が通りそうな場所ではない。車も滅多に通らない。ここは主要道路ではなく、交通量は非常に少ない。駅前をまっすぐ行くと、車一台がやっと通れそうな、非常に細い上り坂の道がある(写真右上)。急坂を上がると何があるのだろう。行ってみたい気もするが、雨だし、やめておく。


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 その代わり、線路に沿って榎戸方向に歩いてみる。途中の道もひっそりと静まり返っている(左上)。3分ほど歩くと踏切がある。成田屋踏切という名前である。その前後も森が鬱蒼としている。夜など一人で歩くのは恐いかもしれない。かように東京近郊とは思えない所ではあるが、その先には大きな道路が高架で通っている。これは東関東自動車道で、このあたりで目に入る唯一の現代的なものと言っては言いすぎであろうか。それほどにこの一帯は、昔ながらの田舎の風景が続いている。

総武本線・南酒々井駅_e0028292_42432.jpg 次の9時02分発銚子行に乗るべく駅へ戻る。乗客は誰も現れない。やってきた新型電車の銚子行にはパラパラと客がいたが、ここでの乗降客は、やはり私だけである。今度は列車交換はなく、すぐ発車する。

 次の榎戸で上り列車待ち合わせのためしばらく停車したが、その榎戸の千葉方面ホームは、列車待ちの客がかなり沢山いたし、駅周辺も新興住宅として開発されていた。昔は南酒々井と乗降客の少なさを争うぐらいの駅だった筈だが、一方は全くもって変わってしまっていた。対する南酒々井は、もうこれからの時代、発展することはないかもしれないし、しないでいつまでもこのまま残って欲しいものだとも思う。
by railwaytrip | 2009-11-17 08:36 | 関東地方


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