最近モダンな駅に改装された弘前。ここが始発で秋田までの約150キロを2時間半かけて走破する普通列車は、3輛編成の交流電車である。それなりに長距離を走るにもかかわらず、全てロングシートの、東京近郊と変わらぬ電車であるのは、誠にいただけない。これでは折角鉄道の旅を楽しもうという人どころか、用務客でさえ鉄道離れを起こす恐れがあるということを、JRの当局は考えていないのであろうか。私自身、これは二度と乗りたくないと思ってしまった。実際、発車数分前に、大きな荷物をかかえたおじいさんが「秋田はこれでいいんかいな」と車掌に尋ねながら乗ってきた。特急の本数もさほど多くないこの地方では、今の時代でも、ある程度の長距離客が普通列車に乗り合わせることも、ままあるのである。特急が30分毎に走る鹿児島本線などとは事情が異なる。
何はともあれ、乗客は3輛合わせて30~40人ぐらいであろうか、昼間の閑散時間帯にしては悪くない人数だが、大鰐温泉と碇ヶ関で近距離客が下車し、だいぶ減ったようである。碇ヶ関までが弘前郊外と言える区間で、ここからは、険しい矢立峠の国境越え区間となり、日常的な流動は少ない筈である。その区間にある人跡稀なる山奥の駅、津軽湯の沢で、おばさんが一人下車した。左下の写真は津軽湯の沢停車中の車内風景。 秋田県に入った最初の駅、陣場(写真右上)では、一人の乗車がある。人口が少なくてもこうして普通列車が通れば利用者が僅かでもある。ほっとする光景である。というのも、今やそうではない所も少なくないからである。それにしても、さきほどの秋田までのおじいさんは、このロングシートにあぐらをかいて、所在なさそうに座っている。繰り返すが、これは長距離客にあまりに気の毒な座席である。 とはいえ、全体に占める長距離客の割合は少なく、大館では大半の客が入れ替わる。大館は昔ながらの鉄道主要駅の風格が今も十分の、重厚な駅だ。ここで車掌も交代する。今度は若い車掌で、マニュアル通りなのか、東京の電車と変わらない口調で案内放送を入れる。もとより方言もなく、一層旅情が薄らぐ。その放送の最後に「なお、途中の糠沢には停まりませんからご注意下さい。」と付け加えた。 その糠沢という駅は、大館から3つ目、鷹ノ巣の一つ手前の駅である。いつの頃からか、時刻表を見ると、この駅だけ通過する普通列車が多いことに気づいてはいた。汽車時代には乗降場並みの小駅を通過する列車があったが、この糠沢はそれとは違う。その時代、秋田に近い上飯島を通過する列車はあったが、糠沢だけを通過する列車はなかった筈だ。逆に上飯島は、秋田に近いので、今は都市圏としての利用が伸びているのか、全ての普通列車が停車する駅に変わっている。それはともかく、糠沢とはどんな駅か、どうしても気になってしまう。 早口を出てしばらくすると、電車は田園地帯を快走する。ローカル鈍行でも、幹線を走る新型電車だから、スピードは速い。客車列車でのんびり行った時代は、それはそれで懐かしいし、何よりも旅情があったが、輸送機関としては、あのままでは駄目なことは私でもわかる。写真左上は糠沢手前の車窓。そして糠沢を高速で通過(写真右上)。確かに閑散とした場所にある駅だが、人家もパラパラと見られ、ここだけを通過するほど、明らかに差があるとは感じられなかった。昔の印象では、むしろ鷹ノ巣の次の前山の方が、米代川に沿った小駅というイメージが強かったのだが、さてどうだろう。 糠沢通過の後数分で、次の鷹ノ巣に停車。元国鉄阿仁合線で、第三セクター化された、秋田内陸縦貫鉄道の乗換駅だが、この列車からは接続がないので、ここでの乗降客は僅か。律儀な若い車掌も、この線の乗り換えについては、接続列車の案内もしない。JRではないからなのだろうが、元国鉄の路線だし、気の毒な気がする。 鷹ノ巣の次の前山は、この区間をその昔、客車の鈍行で通った際、私がもっとも印象強く感じた駅であった。駅の裏手を米代川が線路に寄り添ってくる所にある閑散とした駅で、その川の風景が印象に残っている。しかし、今日見ると、川は護岸工事によって様変わりしており、堤防が築かれ、車窓からでは水面は見えない。反対側を見れば駅前は閑散としており、糠沢と大差ない感じがする。この駅での乗降客はいなかった。ここもやがて糠沢同様、昼間は普通列車が通過するようになるのか、それとも車窓からだけではわからない所に糠沢よりは利用客がいる要素があるのか、それはこういう通りすがりの旅だけではわからない。 次の二ツ井は、木材の集散地でもあり、世界遺産・白神山地への入口の一つでもある。それと多分無関係に、一般の利用者、特に乗車客が多く、活気が感じられた。二ツ井から3駅目が東能代、私はここで降りる。 東能代は、能代の町からはずれ、閑散とした所にある駅だが、奥羽本線としては主要駅であり、ここは下車より乗車客がずっと多かった。一応ここから秋田までは、秋田都市圏ということで、本数も増えるし、多分この先、各駅で客を拾いながら秋田へと向かうのであろう。ともあれ、弘前から東能代までの間は、始終、空席の目立つ列車であった。ロングシートだから余計そう感じたのかもしれない。乗客の殆どいないローカル線とも違うのだが、やはり日中のこの時間帯のこういう列車は、せめてセミクロスシートぐらいの車輛を使って欲しいと強く望む次第である。
by railwaytrip
| 2007-04-05 11:17
| 東北地方
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