スイスの鉄道路線図を見ると、ループ線が沢山ある。流石はアルプスを有する山岳国だ。ローカル線もあるが、幹線もある。日本でも、北陸本線の敦賀の手前に、特急が頻繁に行き交うループ線がある。かつては上越線の上り線もそうであったが、新幹線開通後はすっかり寂れてしまった。
その中から一つ選んで乗ってみる。チューリッヒとイタリアのミラノを結ぶ幹線で、その南半分には、30分の間に4つものループを回ってくれる区間がある。その南側の駅、Biasca(ビアスカ)へやってきた。Biasca は、スイス南部のイタリア語圏にある小さな町だ。イタリア国境のChiasso(キアッソ)からLugano(ルガノ)を中心としたエリアの北端にあたり、ここまではSバーンも来ているという駅である。構内は広く、いかにもここから峠越えの険しい道を行く、という感じの駅である。恐らく昔は補助機関車が沢山たむろしていたのであろうが、詳しいことはわからない。雪がある程度積もっているものの、さほど深くない。 乗るのはIRというリージョナル列車で、各駅停車ではないが、区間によってはそれに近い役割を担い、区間によっては快速か、急行に近い役割を担う列車で、ある程度の長距離客も利用することがある。この区間、日中は1時間に1本が綺麗な等間隔で走っている。トーマス・クックの地図を見ると、ここと次のFaido(ファイド)の間に2つ、FaidoとAirolo(アイロロ)の間にも2つ、ループがあり、くるくると回りながら峠を上っていく様子が、地図を見るだけでも想像つく。Biasca~Faidoが26kmで23分、Faido~Airoloが20kmで18分(停車時間含む)なので、表定速度は60キロを超えている、それなりの高速列車である。 列車は機関車が客車8輛(うち荷物車1輛)を牽引する長い編成で、乗車率は2割程度と、空いている。お客も地元の人ばかりのようだ。隣のボックスのおじさんは、犬を連れている。何とも長閑な列車である。他の乗客は誰一人、一生懸命車窓を見たりはしていない。 Biasca を出ると、しばらくは家も多いが、勾配を上っている感じはわかる。両側は山で、線路はその谷間を走っている感じだ。左は高速道路がまとわりついていて、汽車旅の風景の楽しみを半減させてくれている。今やこれはどこへ行っても仕方ないことである。ループはまだかまだかと心待ちにしているうちに、隧道に入り、右へ右へとカーヴが続くので、ここかなと思う。隧道を出ると、だいぶ高い所になり、左手下方に、今走ってきたに違いない複線の線路が見えた。少し行くとまた隧道に入り、また右へ右へとカーヴ。もう一回りして、さらに上ってきたのだが、今度の左下の景色は通ってきた線路がはっきり見えぬまま、まっすぐ先へと進む。その後は意外に直線に近い線路を快調に飛ばし、Faidoに停まる。小さな町で、乗降客も僅か。すぐ発車する。 Faidoからも、同じようにしばらくは谷間を快走する。数分後、隧道に入り、今度は左回りのカーヴが続く。列車の編成が長いこともあり、カーヴが続いている感じは良くわかるのだが、今度はループの上からの下界は良く確認できなかった。少し直線が続き、今度はまた右回りのループである。こちらはループが終わりかける頃から隧道を出て、少し行くと左手に、今通ってきた線路がはっきりと見えた。道路が邪魔だが仕方ない。再び隧道に入り、出ると小さな駅があるが、通過する。この区間はこのIR列車が1時間に1本だけのはずで、それが通過する駅というのは、どういうことだろうか。朝夕のみの停車かもしれない。そして、その後も高速道路とつかず離れず、だいぶ上ってきたかな、と思う頃に、Airolo到着である。 Airoloも小さな山峡の町で、乗降客は多くない。特に観光地でもなさそうだが、ホテルなどは見られる。雪はBiascaあたりに比べるとだいぶ深い。列車はこの先は長い隧道で峠を越えて、今度はループを回りながら下っていく筈である。この先も乗ってみたかったが、事情によりここで下車し、引き返す。冬の北国の短い陽は、谷間に早くも影を作っているが、見上げれば山の中腹から上は、雪山が青空に映えて美しい。
by railwaytrip
| 2008-01-06 14:30
| スイス
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