東京から名古屋へ行く。珍しくも何ともない。毎日大勢の人が利用している。ここは鉄道斜陽の時代といえども、鉄道のシェアが非常に高い区間であろう。もとよりその殆どが東海道新幹線利用である。
私は夕方までに名古屋に着けばよかったので、東京11時16分発の長野新幹線あさま519号に乗った。長野着12時49分。11分の連絡で、13時ちょうど発の特急しなの14号名古屋行がある。名古屋着15時59分。最新のN700系のぞみ号なら1時間41分のところ、所要時間は乗り継ぎを含め4時間43分。鉄道を移動の手段としか考えられない人からみれば、狂気の沙汰だろうが、移動を楽しむと考えれば、東海道新幹線の何倍も楽しい。難しい議論はさておいて、とにかく旅をした気分になれるのは間違いない。それに、碓氷峠の機関車付け替え時代を知る者としては、この所要時間にも隔世の感がある。 長野は小雨だった。日曜だが、観光シーズンでもなく、聖火リレー騒ぎから一段落して静かに落ち着いていた。特急しなのは383系というステンレス車体の6輛編成。乗車率は全体では半分以下かと思われる。 定刻に発車。まずは信越本線を東京方面へ逆戻りし、郊外の篠ノ井に停車する。ここで東京方面へ向かう信越本線と分岐し、と書きたいところだが、今はあちらは軽井沢までの第三セクター、しなの鉄道だ。だが、往年の鉄道網では、そういうことになる。このルートは、篠ノ井~松本間、塩尻~名古屋間とも、東京を中心に考えると、三角形の底辺に当たる。つまり、東京に住んでいるとあまり乗る機会がない区間である。しかもその両区間とも景色が素晴らしい。 篠ノ井を出た篠ノ井線は、早速勾配を上り始める。最初の通過駅、稲荷山は、まだ盆地の中という感じではあるが、長野市郊外の住宅地駅という感じではなく、早くも田舎の駅らしい雰囲気だ。そしてここからぐんぐんと上るにつれ、左に千曲川沿岸に開けた善光寺平の眺めが広がってくる。下界はそれなりに建物も目立つ。昔より増えたような気もする。長野新幹線ができて東京が近くなったせいかもしれない。そしてスウィッチバックの姨捨駅は通過なので、右手にあるはずのホームなどは見えないが、ポイントをがたがたと渡る音でそれとわかる。このあたりからの眺めが特に素晴らしく、日本三大車窓の一つとされている。それも姨捨から1分ほどで、やがて長い冠着隧道に入る。 出るともはや善光寺平の眺めはなく、寂しい山の中の駅、冠着を通過し、続いて聖高原に運転停車する。ここはその昔、麻績(おみ)という実に味のある難読駅であったし、今も所在地は麻績村である。左手に長野高速道の麻績インターチェンジが見える。新しくできたインターチェンジ名の方に昔ながらの村名が使われているのは皮肉だ。あちらは観光改名をして客寄せをする必要がないからだろうが、願わくばJRの駅も麻績に戻してもらいたいものだ。 坂北村を抜け、また長い隧道で目まぐるしく複雑な地形を抜けると人家が増えて明科を通過する。松本まであと2駅で、完全に松本圏に入ったが、駅間距離は長い。大糸線が右から寄り添ってきて、大糸線だけにホームのある北松本をかすめて松本。長野県の二大都市で、仲が悪いことでも知られる両都市であるが、この区間だけ特急に乗る県内利用者は結構多く、乗客がある程度入れ替わる。 松本から塩尻までは、一転して建物の目立つ松本盆地の複線区間となる。線名は篠ノ井線ではあるが、実態は中央東線と中央西線が線路を共用していると言った方いい区間だ。そこを塩尻まで、特急しなのは僅か9分で快走する。かつてスウィッチバックを要した塩尻だが、今は駅の移転によりその必要もない。昔の塩尻駅は、駅全体も駅前も汽車駅そのままであった。そんな面影もどこへやら、今の塩尻駅(写真左)はモダンな都会の郊外駅と変わらない。それでも既に移転してだいぶ日が経ち、年季も出て来たようである。ここは何とホームに葡萄の木が植わっている。 塩尻で中央東線が左へ分かれ、今は恐らく貨物や回送のための短絡線(かつては本線だった)が合流してくると、今度は木曽谷へ入る。篠ノ井線とは違った意味での山岳路線であり、中仙道に沿った歴史のある道でもある。その宿場の殆どに駅があるが、特急は停車しない。奈良井など、駅のすぐそばに古くからの宿場の街並みが時代を超えて残っているが、高速の特急列車からでは観察する間もない。木曾漆器の看板がやたら目立つぐらいで、ひたすら渋いを木曽谷を、木曽川に沿って高速で下っていく。私の席は進行左側なので、残念ながら、寝覚ノ床を含む木曽谷の渓谷は見えない。姨捨の絶景を見た代償と思って諦める。 木曽谷の停車駅は木曽福島と南木曽の2つだが、乗降客はさほど多くない。南木曽(写真左)は駅の横が木材の集散地となっていた。南木曽を出ると木曽路も終わりをつげ、木曽川の幅もだいぶ広くなり、ほどなく岐阜県に入る。そのあたりから雨がひどくなってきた。大雨なので木曽川の流れにも迫力がある。不通にならないかと心配になるぐらいの降り方だと心配しているうちに、久しぶりに平地が広がり、家が増えると中津川に着く。名古屋都市圏の終点のような駅だが、大都市郊外というより地方都市である。 中津川からは木曽川と離れ、東濃の盆地の渋い風景の中をスピードを上げて走る。多治見まで来ても土砂降りの雨は勢い衰えないが、列車は僅かな停車時間で定刻に発車した。多治見を出ると、名古屋が近いのに、再び今度は土岐川の渓谷に沿った眺めの良い区間になる。今度は川が左手なので、豪雨に煙った川の眺めが満喫できるが、隧道が多い。古虎渓、定光寺という2つの寂しい無人駅を過ぎ、少しすると急に景色が変わり、住宅が激増し、完全に名古屋のベッドタウンという感じの高蔵寺を通過。今しがたまで木曽谷の寂しい風景の中にいたのが嘘のような変わりようで、都市近郊の平野の風景となる。そういう地形の変化とも関係あるのか、雨も小降りになってきた。副都心の千種で多少の客を降ろし、名古屋市街の東部をぐるりと半周するような形で東海道本線と合流する金山を過ぎ、定刻15時59分、名古屋駅に滑り込んだ。雨はすっかり小降りになっていた。 後で知ったのだが、この特急が通過した直後、中央西線は雨量が規定値を上回り、不通になったらしい。この1本後の特急は、名古屋に相当遅れて着いた筈である。危ないところであった。
by railwaytrip
| 2008-06-29 13:00
| 中部地方
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